記事を3行で解説
➀1970年代のARPANET上で、善意と実験精神からCreeperやReaperなど「デジタル生命」ともいえる初期マルウェアが生まれた。
➁RabbitやANIMALなどのプログラムが、フォークボムやトロイの木馬、ワームといった現代の攻撃概念の原型となった。
➂当初はコンピュータの可能性を試す実験動物”だったコードが、PCの私有化とともに「ウイルス」という害獣として扱われるようになった。
ARPANETとデジタル生命の創造

1970年代。インターネットはまだ存在せず、研究者や一部のマニアだけがコンピュータという巨大な計算機に触れることが許されていました。
そこには、現代のハッカーたちが憧れる「伝説の原点」があります。
舞台はインターネットの前身、ARPANET(アーパネット)。
当時のコンピュータは部屋一つ分くらいの大きさがある「メインフレーム(PDP-10など)」でした。
ARPANETに関しては以下の記事をチェック!

デジタル生命の創造
コンピュータは「白い巨塔」のような巨大な箱のメインフレームで、選ばれし研究者たちが、緑色の文字が光る黒い画面と向き合っていた時代でした。
この時代のウイルスは、悪意ある「犯罪」ではなく、「デジタル生命の創造」という哲学的・科学的な実験でした。
そして、この時代のキーワードは「性善説」です。
ネットワークは、大学や研究所の信頼できる仲間同士でしか繋がっていませんでした。
だからこそ、セキュリティの意識は低く、自由で、そして危険な実験が可能だったのです。
「俺はクリーパー、捕まえられるか?」
歴史の教科書を開くなら、まずはここから。
ネットワークを彷徨う幽霊Creeper(クリーパー)

世界初と言われるマルウェア。厳密には「ワーム」です。
これはボブ・トーマスという研究者が、「プログラムってネットワークを移動できるのか?」という純粋な実験で作ったもの。
感染した画面に出るメッセージはこれ。
I’M THE CREEPER : CATCH ME IF YOU CAN
(俺はクリーパー。捕まえられるもんなら捕まえてみな!)
しかし、Creeperはファイルを消したり盗んだりする機能は一切ナシ。
ちなみに、これを駆除するために作られたプログラムの名前は「Reaper(草刈り機)」とトンチのような話でした。
Creeper(クリーパー)の真実
ボブ・トーマスが作ったこのプログラムは、実はウイルスというより「移動する機能」のテストでした。
Creeperは自分を「コピー(増殖)」したのではなく、「移動(ジャンプ)」していました。
あるマシンから次のマシンへ移るとき、元のマシンのCreeperは消える仕組みだったのです。
ここが天才的ポイントであり、まさにネットワークを彷徨う幽霊を作ったのです。
Reaper(リーパー)の正体
50年前にこの概念があったなんて、震えるだろう?
Creeperの後、いくつかの「原始的なウイルス」が登場するぞ
優秀な研究者たちが「コンピュータでどんな面白いことができるか?」を競い合っていた。
だからこそ、生まれたプログラムもユニークで、どこか憎めないものばかりだったのだ
無限増殖するRabbit(ラビット) – 1974年

「Wabbit」とも呼ばれるこのプログラム。
専門家の間では、Rabbitはウイルスやワームではなく、「バクテリア」と呼ばれることがあります。
なぜなら、他人のファイルに感染(ウイルス)したり、ネットワークを旅(ワーム)したりせず、”その場にとどまって、ひたすら分裂するだけ“だからです。
かわいらしい名前の割に、これは悪質でした。
倍々ゲームの恐怖
コンピュータには「ジョブキュー(仕事の待ち行列)」があります。
Rabbitは、自分が実行されると、即座に2つの自分をジョブキューに登録します。
1つが2つに、2つが4つに、4つが8つに…。
機能はシンプルに「自分自身を無限にコピーする」ことでした。
システムの「呼吸」を止める
当時のメインフレームはバッチ処理で、順番に仕事をこなすスタイル。
しかし、Rabbitは優先度が最速に設定されていました。
人間が「計算して!」と命令を送っても、Rabbitたちが「俺たちが先だ!」「俺も!」「俺も!」と割り込み続け、人間の命令は永遠に実行されません…
Rabbitがねずみ算式に増えると、システムのリソースが食いつぶされ、最終的にクラッシュする仕組みでした。
起動した瞬間にまた増殖を始めて、起動プロセスすら完了させないのです。
まさに不死身のゾンビうさぎでした!
そういえば、なんで「Wabbit」と呼ばれるの?
ただし、Rabbitの暴走は、ただの迷惑行為では終わらなかった。
これにより、OSの設計思想が根本から変わったのだ
自動でコピーされるANIMAL(アニマル)

1975年、ジョン・ウォーカー。
この名前、覚えておいてください。
彼は後に、あのCADソフトで有名なAutodesk(オートデスク)社を設立する大物です。
これはUNIVACというコンピュータで作られた20の質問ゲーム。
「あなたが考えている動物を当てますよ」
…というゲームなんですが、裏でこっそり他のディレクトリに自分自身をコピーしていました。
これが、「楽しませると見せかけて侵入する」=「トロイの木馬」の最初期の例と言われています。
想定外のバグ
実はジョン・ウォーカーは、みんなにこのゲームを遊んでほしかっただけなんです。
でも、いちいちテープに入れて渡すのが面倒くさい。
そこで彼は、「遊んでいる間に、勝手に他のディレクトリに自分をコピーする機能」を追加してしまいます。
彼は慎重に設計しましたが、当時のUNIVACコンピュータのOSに仕様変更がありました。
最終的に、OS自体にパッチを当てて駆除したんだ
この教訓としては「便利にしよう」という善意が、環境の変化によって「凶悪なウイルス」に変貌したした例といえるな!
SF小説が予言した「ワーム」の概念

1975年に、『衝撃波を乗り切れ』(The Shockwave Rider)という小説が出版されました。
技術者たちはこの時代、SF小説から大きなインスピレーションを受けていました。
ジョン・ブラナーが書いたこの小説には、「Tapeworm(サナダムシ)」というプログラムが登場します。
ネット上を自由に動き回り、データを集めたり、逆に政府の検閲システムを破壊したり…
この小説を読んだ研究者たちが、「これ、実際に作れるんじゃね?」と考え始めました。
1980年代に現れる「ワーム」という名称は、この小説から取られたというのが定説です。
フィクションが現実のウイルスを作ったとも言えるのです。
コンピュータの可能性を追求する姿勢
1970年代のウイルスのご先祖様を振り返ると、一つの共通点が見えてきます。
それは、境界線がないことです。
自分のプログラムと他人のプログラム、自分のPCと他人のPC。
その境界が曖昧だったからこそ、彼らは自由にネットワークを泳ぎ回れました。
- Creeper → ネットワーク探索の夢
- Reaper → 自律防衛の夢
- Rabbit → 無限処理の夢(悪夢)
- ANIMAL → 自動配布の夢
彼らは「破壊」のためではなく、「コンピュータの可能性」を試すために生まれた”実験動物”だったのです。
しかし、80年代に入り、PCが個人の所有物になると、「俺の土地に入ってくるな!」という概念が生まれます。
これらの実験動物は「害獣(ウイルス)」として駆除される運命を辿るのです…!
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