Bluetooth、Wi-Fi、GPSの基礎技術を開発したのはハリウッド女優!?ヘディ・ラマーの波乱に満ちた生涯

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革命的な無線技術を発明した米ハリウッド女優「ヘディ・ラマー」

Bluetooth、Wi-Fi、GPS

——現代の生活になくてはならないこれらの無線通信技術。

「Bluetooth」や「Wi-Fi」「GPS」は、FHSS（周波数ホッピングスペクトラム拡散）と呼ばれる通信方式が採用されています。

これは無線技術がそもそも持っている電波干渉に弱い問題を改善するもので、無線の周波数を決められた周波数帯内で、高速移動させることで、電波干渉を防ぐという画期的な技術でした。

好奇心旺盛な幼少期

この技術を開発したのは、オーストリア出身の「ヘディ・ラマー（1914年～2000年）」です。

ラマーは1914年、ウィーンのユダヤ人夫婦の家庭に生まれました。

父親は銀行家で、母親はピアニストという恵まれた環境で育ち、幼い頃から芸術や科学に強い興味を持っていました

幼少期、父親と街を散歩をするのが好きだった彼女は、街灯やバスの仕組みを知りたがる好奇心旺盛な女の子でした。

彼女は「なぜ物が動くのか」「どうやって電気が流れるのか」といった疑問を常に持ち、父親と一緒に街を散歩しながら様々な機械の仕組みを学びました。

そんな中で、発明家としての道もぼんやり見えていたのかもしれません。

女優としてのキャリアをスタートと結婚

演劇の盛んな大都市ウィーンに育った彼女は、「女優」という夢を抱きました。

1930年16歳のとき、まずは監督助手となりキャリアをスタートさせます。

1933年、チェコ映画『春の調べ（Ecstasy）』で映画史上初のヌードシーンを披露し、スキャンダルと注目を集めました。

「春の調べ」の直後、裕福な兵器製造業者フリードリヒ・マンドルと結婚。

マンドルはナチスやムッソリーニとも親交があり、ラマーは社交の場で最先端の兵器技術に触れる機会を得ます。

彼女はこの時期、兵器や通信技術について多くの知識を吸収したのです！

結婚生活に嫌気

マンドルは嫉妬深い男でした。

ラマーを軟禁状態に置き、女優業を辞めさせました。

そんな生活に嫌気がさした彼女は、1937年に離婚。

パリ経由でアメリカに渡り、ハリウッド女優として再デビュー。

アメリカではMGMのルイス・B・メイヤーに見出され、ハリウッドスターとして活躍。

シャルル・ボワイエ、クラーク・ゲーブル、ジェームズ・ステュアートなど一流俳優と共演し、「世界で最も美しい女性」と称されました！

その後、数々の映画に出演し、一躍スターダムにのし上がりました。

そんな中、第二次世界大戦が勃発します。

周波数ホッピングスペクトラム拡散（FHSS）技術の完成

第二次世界大戦中、疎開する子供たちを乗せた船がナチスの潜水艦により、大西洋上で爆撃されていることを知りました。

心を痛めたラマーは、潜水艦を攻撃するシステムを開発します。

潜水艦の攻撃には無線誘導の魚雷が有効ですが、無線誘導は当時の技術では電波妨害に遭いやすく命中率が低かったのです。

そのため、妨害されにくい無線システムを開発できないかと考えました。

ピアノの演奏が発明のキッカケ

そして、ラマーは、同じく発明家であり音楽家であったジョージ・アンタイルと共に開発に没頭しました。

ある日の休憩中、ジョージとお互いに転調しあいながらピアノを弾いていた彼女。

ピアノの鍵盤（88鍵）をヒントに、信号を複数の周波数で切り替えて送受信する「周波数ホッピングスペクトラム拡散（FHSS）」技術を考案します。

送信側と受信側でピアノロールを使用し、スペクトラム内の88の帯域の中で次々と周波数を切り替えながら、短時間で信号を送信するというものです。

「周波数もこんなふうに変えていけば妨害されないのでは…」というところから着想を得て、ついに完成に至り、特許も取得しました。

この発想は、現代の「携帯電話」「Wi-Fi」「Bluetooth」「GPS」などの基礎技術となりました。

世に認められ世界へ

1942年、ラマーとアンタイルはFHSSの特許を取得。

ラマ―は、完成した技術をアメリカ海軍に提案しますが、「ピアノを水雷に詰め込むなんて無理だ」と一蹴。

やがて、その技術は実用されることなく終戦を迎えてしまいます。

時は流れ、1962年のキューバ危機で、海軍はヘディの周波数ホッピングに手を加えて実用化することになり、彼女の先見の明がやっとで証明された瞬間でもありました。

晩年のヘディ・ラマー

ヘディ・ラマーの晩年は、孤独や社会的孤立、そしていくつかのスキャンダルに彩られたものでした。

1950年代以降、彼女の映画出演は減少し、1957年にほぼ引退状態となります。

その後、彼女は6回の結婚と離婚を経験し、晩年は比較的孤独な生活を送りました。

1966年には自伝『Ecstasy and Me』を出版しましたが、後に内容が自分のイメージを傷つけるものだと感じ、出版社を訴えるなどトラブルもありました。

孤独な生活

晩年のラマーは、容姿の衰えを気にして整形手術を受けたものの、結果が思わしくなく、さらに人目を避けるようになったと伝えられています。

また、1966年と1991年には万引きで逮捕される事件も起きました。

1991年の事件では、わずかな下剤と目薬を万引きしたため再び逮捕されましたが、訴訟は取り下げられています。

1980年代以降は視力が低下し、フロリダ州マイアミビーチなどで隠居生活を送りました。

電話が唯一の外界との連絡手段となった時期もありました。

衰えない創造力

晩年は薬物依存や精神的な不安定さに悩まされていたラマーでしたが、2000年1月19日、フロリダ州カッセルベリーの自宅で、心不全など複数の心疾患により85歳で亡くなりました。

彼女の遺骨は息子の手によってウィーンの森に散骨され、2014年にはウィーンの中央墓地に名誉墓が建てられました。

彼女が亡くなる３年ほど前に面会した技術者の評によると、ラマーの卓越した頭脳は健在だったと語られています。

彼女と話していると映画スターと話している気はまったくしなかった。
ただただ、卓越した技術者、発明家と話しているという感覚だけがあった。
脈絡のない技術的な事項が、彼女の聡明な頭脳の中で次々とつながり整理され、アイデアの滝となって口からほとばしる。その様子は壮観だった。

晩年は社会的にはやや忘れられた存在となりましたが、発明家としての功績は1990年代以降に再評価。

1997年にはEFFパイオニア賞を受賞、2014年には全米発明家殿堂入りを果たしています。

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